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ダンスとワーキングメモリーの関係とは?子どもの「覚えて動く力」を育てる指導

  • 8月9日
  • 読了時間: 7分
ダンスとワーキングメモリーの関係とは?子どもの「覚えて動く力」を育てる運動の可能性

ダンスとワーキングメモリーの関係とは?子どもの「覚えて動く力」を育てる運動の可能性


「先生の動きを見ていたのに、いざ自分の番になると分からなくなってしまう」

「振付を覚えるのに時間がかかる」

「一つ指示を聞くと、その前の指示を忘れてしまう」

子どもたちにダンスを指導していると、このような場面に出会うことがあります。


こうした「情報を一時的に覚えながら、それを使って行動する力」に深く関係しているのが、ワーキングメモリー(作業記憶)です。


ワーキングメモリーは、学習だけでなく、運動、コミュニケーション、日常生活など、さまざまな活動を支える重要な認知機能です。


今回は、ワーキングメモリーとはどのような能力なのか、そしてダンスのような「身体を動かしながら考える活動」とどのような関係が考えられるのかを解説します。


ワーキングメモリーとは?


ワーキングメモリーとは、簡単にいえば、必要な情報を一時的に頭の中に保持しながら、その情報を使って考えたり行動したりする機能です。


例えば、先生から

「赤いコーンまで走って、そこでジャンプを2回してから戻ってきてください」

と言われたとします。


この指示を実行するためには、

「赤いコーンまで走る」「ジャンプを2回する」「元の場所に戻る」

という複数の情報を一時的に覚え、それを順番に処理する必要があります。


単純に情報を保存するだけではなく、覚えた情報を使いながら行動することがワーキングメモリーの大きな特徴です。


そのため、学校生活でも「先生の説明を聞いて課題に取り組む」「文章を読みながら内容を理解する」「計算の途中経過を頭に置きながら答えを出す」といった多くの場面で使われています。


発達特性のある子どもとワーキングメモリー


ワーキングメモリーを含む「実行機能」は、注意のコントロールや行動の抑制、状況に応じた切り替えなどにも関係する認知機能です。


特にADHD(注意欠如・多動症)のある子どもについては、実行機能やワーキングメモリーに困難を示すケースがあることが多くの研究で指摘されています。

ただし、ここで重要なのは、発達特性があるから必ずワーキングメモリーが弱いわけではないということです。

同じ診断名や似た特性があっても、得意・不得意の現れ方には大きな個人差があります。

例えば、


口頭で長く説明されると分からなくなる

複数の指示を一度に出されると混乱する

途中で別の刺激が入ると、何をしていたか分からなくなる

動きを一つずつならできるが、連続すると難しい

といった様子が見られる場合があります。


これは「やる気がない」「話を聞いていない」と単純に判断できるものではありません。


情報量や提示方法が、その子の処理しやすい範囲を超えている可能性も考える必要があります。


実はダンスでもワーキングメモリーを使っている


ダンスは、一見すると身体能力を中心とした活動に見えます。


しかし実際には、身体だけでなく多くの認知機能を同時に使います。


例えば4つの動きを、

「右にステップ→左にステップ→手を上げる→ジャンプ」

という順番で踊るとします。


子どもは先生の動きを見て、その情報を一時的に記憶し、順番を保持しながら、自分の身体の動きへと変換しなければなりません。


さらに音楽が加われば、

「次は何の動きか」「どのタイミングで動くか」「右と左のどちらか」「先生や周囲と合っているか」

など、複数の情報を処理することになります。


つまりダンスには、見る・聞く・覚える・判断する・身体を動かすという複数の処理が含まれているのです。


「身体を動かしながら考える」ことの重要性


近年は、子どもの実行機能と身体活動の関係についても研究が進んでいます。


ADHDのある学齢期の子どもを対象とした研究をまとめたメタ分析では、身体活動への介入によって実行機能に改善が認められ、ワーキングメモリーについても一定の効果が報告されています。

特に、単純に身体を動かすだけではなく、判断やルール、注意などの認知的要素を伴う運動が注目されています。


2025年に発表されたメタ分析でも、ADHDのある学齢期の子どもに対する身体活動は実行機能の改善と関連し、ワーキングメモリーについて中程度から大きな効果が報告されています。

また、2023年のメタ分析でも、身体活動によるワーキングメモリーへの有意な効果が示されています。

さらに2026年のシステマティックレビュー・メタ分析では、身体活動の種類によって実行機能の各領域への効果が異なる可能性が示されており、複数の要素を組み合わせた運動はワーキングメモリーに対して有望であることが報告されています。


もちろん、これらの研究から「ダンスをすれば必ずワーキングメモリーが向上する」と結論づけることはできません。


しかし、身体運動に認知的な課題を組み合わせることが、子どもの実行機能を刺激する可能性があるという点は、ダンス教育を考えるうえでも非常に興味深い知見です。


ダンスレッスンで大切なのは「少しずつ覚える」こと


一方で、ワーキングメモリーに負荷をかければかけるほど良い、というわけではありません。

一度に多くの振付を覚えさせたり、長い説明を続けたりすると、処理できる情報量を超えてしまうことがあります。

そこで重要になるのが、課題を小さく分けることです。


例えば8カウントの振付を最初からすべて覚えるのではなく、

最初の2カウントを練習する↓できたら次の2カウントを加える↓4カウントをつなげる↓最終的に8カウントへ広げる

というように段階的に進めます。


これは単にダンスを覚えやすくするだけではありません。


「できた」という成功体験を積み重ねながら、少しずつ扱う情報量を増やしていくことができます。


視覚情報を活用することも大切


口頭による説明だけでは理解しにくい子どもでも、先生が実際に動いて見せると理解しやすくなることがあります。


ダンスにはもともと、「見て覚える」という視覚的な情報提示を自然に取り入れやすい特徴があります。

「右、左、前、後ろ」と言葉だけで説明するのではなく、先生が実際に動いて見せる。

さらに必要に応じて、言葉と動きを組み合わせる。


こうすることで、特定の情報処理方法だけに頼らず、子どもが理解しやすい方法を探すことができます。


大切なのは「覚えられないから繰り返す」という発想だけではなく、その子にとって分かりやすい情報の伝え方を考えることです。


ダンスを「踊るだけ」で終わらせない


ダンスには、リズム感や運動能力、表現力を育てるというイメージがあります。

しかし実際のレッスンでは、


先生を見る

動きを覚える

音楽を聞く

順番を思い出す

自分の身体をコントロールする

周囲の子どもたちと一緒に動く


という複雑な情報処理が行われています。


だからこそ、ダンスは「身体を動かす活動」であると同時に、身体と頭を一緒に使う活動として捉えることができます。


ユースダンスプロジェクト小平教室では、振付を早く覚えることや、上手に踊ることだけを目的にするのではなく、一人ひとりの発達段階や特性に合わせて課題を設定することを大切にしています。

一度で覚えられなくても構いません。


2つの動きから始めて、3つ、4つと少しずつ増やしていく。


先生の動きを見ながらならできるところから、自分一人でもできるところへ進んでいく。

こうした段階的な経験の積み重ねが、「覚えて動く」「考えながら身体をコントロールする」という力につながっていきます。


まとめ


ワーキングメモリーは、情報を一時的に保持しながら、それを使って行動するための重要な認知機能です。

そしてダンスには、振付の順番を覚える、先生の動きを再現する、音楽に合わせる、次の動きを予測するといった、ワーキングメモリーを使う場面が数多く含まれています。


近年の研究でも、身体活動、特に認知的な要素を伴う運動が、子どもの実行機能やワーキングメモリーに良い影響を与える可能性が報告されています。

ただし、大切なのは難しい課題をたくさん与えることではありません。

「その子が理解できる量に分ける」「見て分かるようにする」「できたら少しだけ難しくする」

この繰り返しです。


ダンスを通して育てたいのは、振付を覚える能力だけではありません。

「先生の話を聞く」「覚える」「考える」「身体を動かす」「周囲に合わせる」。

そうしたさまざまな力を、子どもたちが楽しみながら経験できること。

それも、子どもにとってのダンスの大きな価値の一つだと私たちは考えています。

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